「私もずっと会えなくて寂しいの我慢してたの。
やっとやっと会えたの。
シンタくんと1日一緒にいる!
お兄ちゃんがダメって言っても行くから!」
こんな風に兄に向かって啖呵切ったことなんてあったっけ?
はぁー、ともう一度大きなため息をついた兄が歩み寄ってきて、私のおでこを思い切り弾いた。
「いったぁい!!」
空いている左手でおでこを押さえた私に兄の優しい声が降ってくる。
「ダメなんて言ってないし。言わないし。
自分でそこまではっきり決めたんなら勝手にすれば?
もう大学生なんだから兄貴がとやかく言ったってムダでしょ」
おでこを押さえたまま視線をあげたら、兄は思い切り眉毛を下げていたけどそれでも笑ってくれていた。
「そのかわり明日のバイトは早めに出勤してちゃんと山田先生に謝れよ?
相当絞られるだろうけど俺は助けてやらねーからな」
兄の言葉にこくんと頷く。
「先輩にもちゃんとお礼言うよ」
そう言ったら兄は黙って私の頭をポンポンとしてくれた。
そして、シンタくんに向かって念を押すことは忘れない。
「連れてっていいけど、大事に扱えよ?
日吉家の大事な大事な末っ子一人娘なんだからな?」
「分かってるよ。
ちゃんと大事に預かります。
いきなり手を出したりしないから安心してていいよ。
とりあえず、"今日のところは" ね」
シンタくんが言い終わった途端、兄がカーキ色の背中を思い切り叩いたけど、分厚いダウンのおかげでパスンという情けない音しかしなかった。

