「はい。撤収ー」
一番始めに声をあげたのは渡辺先輩だった。
4人の女子たちを出口へ押しやるように誘導していく。
「えー?」とか「そんなー」とか当然のようにあがる抗議に
「こっからはオトナの交渉タイムだから子どもたちは帰りなさい。
こんなとこでいつまでもグズグズしてるとまた山田さんにどやされるしね。
ほらほら、しっしっ」
さっさと女の子たちをまとめて一緒に外へ出ていってしまった。
私と兄とシンタくん。
3人だけが取り残される。
いつの間にかエントランスに他の生徒の姿もなくなっていて、ここにいるのは私たちだけ。
はぁー、と兄が吐き出した大きなため息が広い空間に溶けていく。
「お前さぁ、馬鹿正直に話せば何でも許されると思ってるの?
丸1日独り占めって……。
兄貴に向かって宣言するかよ、普通」
兄がバリバリと頭を掻く音もよく響いて聞こえた。
「頼むわ、清海。
俺、今日までずっとすげー忙しくって電池切れ寸前なの。
1日くらい時間ないとフル充電出来ない」
そう言ったシンタくんが私の右手を握っている手に力を入れたのが伝わってくる。
そっとシンタくんを見上げたら、兄から目を離さないままもう一度ギュッと手を握られた。
本気だ。
シンタくんは、本気で言ってくれているんだ。
その事を理解した私も兄に向かって口を開いた。
「私もっ……!」
思ったより声に力が入ってしまって、エントランスに大きくこだまする。

