「お久し振りです。 ナベ先輩」
ごく自然に頭を下げて挨拶をするシンタくん。
この2人も同じ大学の先輩後輩だから顔見知りだ。
渡辺先輩は目を真ん丸くして
「は……? シンタ?!」
見事なほどに固まってしまった。
私に彼がいることは知っていても、詳しいことは何も話してなかったので相当驚いているみたいだ。
「……マジで?」
私にスマホを差し出しながら訊ねる先輩に答えたのはシンタくんだった。
「いつも俺の彼女がお世話になってるみたいでありがとうございます。
これからも色々教えてやってください。
もちろん、お仕事に関することだけですけど」
そう言いながら私の肩をグッと引き寄せたシンタくんに女子たちがキャーッと歓声をあげる。
先輩は苦虫を噛み潰したような顔をして、
シンタくんは何故か満足げな表情をしていた。
私はどんな顔をしていいのか分からずポケッとしていた。
「じゃ、行こっか」
シンタくんが私の右手をとって、まだ興奮している女の子たちに「呼んできてくれてありがとうね」と微笑みかけてから歩き出そうとする。
「どこにだよ?」
いつもより低めの不機嫌な声が割り込んできて、私たちは引き留められた。

