幸い誰もいなかった廊下を駆け抜けて、
職員室は2階にあるので階段も一気に駆け下りた。
階段を下りきってすぐに、入り口脇の講師一覧のポスターを眺めているカーキ色の後ろ姿が目に飛び込んでくる。
もう今日の授業は全部終わっていて、大半の生徒は帰っている。
それでも自習していたり、個別で質問していた生徒たちがちらほらとエントランスにまだ残っていて、その誰もが見慣れない大人の男性を遠巻きに眺めていた。
「ホントに……?」
歩調を緩めて、そろそろとその背中に向かっていった。
勢いよく駆け寄ったら、この背中が消えてしまうような気がした。
だって、信じられない。
こんなところに、
わざわざ来てくれるなんて。
ようやく手が届きそうなところまで近付いた私にカーキ色の背中が振り返る。
「この清海うけるね?
すげー緊張してるじゃん。眼鏡なんてかけてるし」
その人はいつもと全く変わらない様子で穏やかな笑顔を私に向ける。
「シンタくん…………」
私はただただ呆然とその笑顔の前で立ち尽くしてしまった。

