「ちなっちゃん、ちなっちゃん!!」
こらーっ!と真っ赤な顔して立ち上がった山田先生に目もくれず、私に駆け寄る女子たち。
「は、はいっ?!」
びっくりしすぎて手にしていたスマホを机に放り出し後ずさってしまった。
彼女たちは高校文系の2年生。
私とは顔馴染みだ。
「エントランスにっ……」
この中でリーダー格の子が私の右腕を力強く掴む。
「エントランスに……?」
ただ呆然とおうむ返しする私に他の子たちが次々と興奮ぎみに喋りだす。
「男の人がちなっちゃんまだいる?って……」
「カーキ色のダウン着てて……」
「めっちゃ爽やか系なんだけど!」
……エントランスに、
……カーキのダウンの、
……爽やか系。
最後の言葉を聞き終わると同時に職員室を飛び出していた。
「日吉妹ぉぉ!!」
山田先生の怒鳴り声も振り切った。
そんなものどうでもいい。
私はエントランスに向かって全力で走った。

