「こら、そこ!
いつまでも喋ってないで早く帰りなさい!」
山田先生が兄たちの方に向かって大きな声を出した。
生徒たちが「はーい」と返事をしながらいそいそと職員室を出ていく。
兄は山田先生に向かって
「すみませーん」
とだけ言って、何事もなかったように自分のデスクに座る。
渡辺先輩も兄も山田先生の不機嫌を全く相手にしない。
必要以上に相手に踏み込まないスタンスは2人ともよく似ている。
……というより、兄が先輩のやり方を真似してるだけなんだけど。
そんな兄を視線の端に捉えながら、私は自分に与えられている補助員用の長机の右端に置いていたバックを手にした。
この予備校の補助員は私以外に1年上の男子学生が1人。
近くの理科大の学生で理系教科の先生方のお手伝いをしている。
今も私と同じように数学の資料作りを手伝っているはずだ。
「あ!」
バックの中で小さな黄緑色の着信ランプを点滅させるスマホ。
私はすぐさまそれを手に取り画面を起動させる。
シンタくんからのLINEメッセージが浮かび上がった。
【後でね】
たった3文字。
「は?」
何これ?
後で電話かメールをするってこと?
ぽかんとしている私の背後に、さっき帰ったはずの4人組がバタバタと駆け込んでくる足音が響いた。

