職員室に戻ると渡辺先輩の机の上には可愛らしくラッピングされたチョコレートが何個も置かれていた。
「生徒が何人も来て置いていきましたよ。
毎年羨ましいですね」
先輩の隣のデスクの山田先生があからさまに苦い顔をしている。
山田先生はこの予備校でも一番気難しいといわれている日本史の講師。
ここは勉強をしに来るところだから、と生徒がこういったイベントを楽しむことを好まない。
渡辺先輩は全く逆の考えで、季節ごとのイベントくらいはしっかり楽しむべきだと主張する。
「そのくらいの余裕は持たせてやらないと。
受験競争は過酷で長いんだから上手に息抜きできなきゃ乗りきれねーよ」
だから、山田先生の表情に全く気付かないフリをしてシレッとしている。
「あ、そうですか。
山田先生ももらわれましたか?
ぴー子、悪いんだけどチョコレート全部そこの紙袋に入れてくれない?」
私は慌ててパソコンを空いているデスクに置いて、両手が塞がっている先輩の代わりに机のチョコレートをまとめると傍らの紙袋にそっと入れた。
袋にはすでにたくさんのチョコが入っていて、先輩がどれだけ生徒に慕われているのかを示している。
『まぁ、それなりに』じゃないじゃん。
こんだけもらっておいて。
ふと、兄はどうなんだろうかとちょっと離れたデスクに目をやると、
兄は今も4人の女生徒に囲まれていて、デスクの横に先輩と同じような紙袋を置いていた。

