「私がシンくんと付き合い始めた頃は、そりゃもちろん楽しかったわ。
初めて自分から好きだって告白した人と付き合えたんだから当たり前よね?
ただ、甘甘だったかというとそれはちょっと答えるのが難しい、かな?」
香折さんはマグカップを弄びながらほんのり笑う。
「私たちってね、普通の恋人たちがするようなデートって殆どしなかったの。
遊園地も映画館も…あと…海とか山とか?
シンくんはね、そういうのは全部日吉くんと彼女さんと3人で行って来ちゃうの」
「ハ……ハハハ……」
春ちゃんは兄のことが大好きだったけどシンタくんのこともお気に入りだった。
3人で出掛けたいってワガママ言ってたんだろうな…。
容易に想像ができて、香折さんに申し訳ないと思った。
でも、香折さんは幸せそうな顔で思い出話を続ける。
「それで私とはこの研究室とか近くの公園とか近場ばっかり。
時間が許す限り2人でずっと話してたわ。
香折さんとはお喋りしてるのが一番楽しいからそれでいいな…って。
そう言われちゃったら、たまにはデートらしいデートしたくても『ま、いっか』ってなっちゃうの。
周りの友達にはつまらない交際だって呆れられてたし、話していることも心理学のことばかりだったから間違っても甘甘なカップルには見えなかっただろうな」

