「……へえ…………」
部屋に入ったとたんその場で立ち尽くしてボケッとした声を発する私。
心理学研究室は、私が想像していたそれとは少し違っていた。
といっても、私の想像の源なんてテレビドラマとかで見たそれだから大したものではないんだけど。
まずはじめに感じたのは、綺麗だということ。
長方形の室内の長い一辺はびっしり本棚で埋まっているけれど、どの本もきちんときをつけの姿勢でまっすぐ整然と並んでいる。
部屋の真ん中には2列に繋げられた長机。その回りを囲むパイプ椅子もお行儀よく脚の間に収まっていて、机の上にも何も置かれていなかった。
本棚の反対側の長い辺にはスチールデスクが等間隔に3つ。
その上だけが多少雑然としているけど気になるほどではない。
大きな窓からは陽射しがたっぷり降り注ぎ、一番右奥のコーナーに置かれた大きなパキラの鉢植えが気持ち良さそうに見えた。
「今年入った修士課程の女の子がものすごい潔癖性でね。
あっという間にこの通りよ。
去年までは本も出しっぱなしだし、床にはレポート用紙が散らばってるし…だったのにね。
私なんか未だに落ち着かない。
あ、そこに座って?」
香折さんはそう言って真ん中の机を指差すと、パキラの横にある小さな棚に置かれたコーヒーメーカーをいじり始めた。

