「千波ちゃんはちょっと色々難しく考えすぎ」
柿本さんは私に向かってふわりと笑う。
「始めっからそんなに自分を押さえつけてばかりじゃすぐに疲れちゃう。
時には我慢も必要だけどそれはもっと相手にぶつかってからするもんだよ。
今はまだお互いにワガママでいい時なんじゃないかなぁ」
柿本さんの優しい言葉がじわじわと私に染みていく。
鼻の奥がツーンと痛くて泣いてしまいそうだ。
「私、早く大人になりたかったの。
だから、シンタくんを子供みたいなワガママで困らせたくなくて…」
「大人になるって自分を押さえつけて我慢ばっかすることじゃないよ?
もちろんそういうことも大切だけど、それだけじゃ成長は止まっちゃう。
自分の主張や意見をきちんと言えて、でも相手の気持ちも考えて譲るとこはちゃんと譲る。
そのバランスを上手くとれるのが大人なんじゃないかな?」
そう言ってくしゃりと笑顔を見せた柿本さんは
「俺だってまだまだアンバランスでちっとも大人になれてないからさ。
千波ちゃんに偉そうなこと言えないけど」
急に照れくさそうに頭をバリバリと掻いた。

