柿本さんが買ってきてくれたコーヒーを一口啜ると、口の中にほんのりとした甘さとヘーゼルナッツの香りがふわんと広がった。
「美味しい。 これってフレーバーコーヒー?」
「よく分かんない。 店員さんに
『元気が出る甘いコーヒーください』
ってお願いした」
「ホントに?」
「ウソ。 メニューにあったやつから適当に選んだ。
名前は本当に忘れちゃった」
「もう!」
私が笑いながら軽く手を振り上げるようにすると柿本さんは自分のカップを取り上げて
「やっと少し元気になったね。
せっかくマスターに会いに来たのに俺が邪魔しちゃったから責任感じてたんだけど」
「そんな! かっきーさんは全然悪くないよ。
悪いのは私だもん」
慌ててブンブン首を振る。
「私が一方的に今日の夕方にお店行くってメール送って押し掛けたんだもん。
シンタくんは、かっきーさんと先約があるから早めにおいで…って返信くれてたのに私が確認しなかったから……」
「メールに気付かなかったんだ?
よくあるよね。そーゆーこと」
柿本さんの返事に一瞬言葉に詰まる。
でも、私は正直に白状していた。
「ううん。シンタくんにメッセージ送った後、わざと確認しないようにしてた」
かっきーさんが「ん?」と不思議そうに首を傾げる。

