「こ、こんにちは。……あ、あれ…?」
慌ててぺこりと頭を下げながら、予想外の展開に頭がついていかず固まりかける。
「いらっしゃいませ。こちらにどーぞ」
そんなところに望んでいた声が耳に届いてそろそろと顔をあげると、シンタくんが仏頂面で柿本さんからスツール1つ分開けた席にモスグリーンのコースターを置いてくれていた。
「……ありがと」
ぐるぐる巻きにしていたマフラーを外しながらスツールに腰かけた。
「千波ちゃん、髪型変えたんだね。
似合ってるよー」
カウンターに右肘をついて私の方に体を捻った柿本さんがとびきりの笑顔で親指を立ててくれる。
「ありがとう…ございます」
前に会った時には、親しみやすい人柄に甘えて敬語なんて使わなかったのに、今日に限って緊張してかしこまっているから柿本さんが首を傾げている。
「千波、かっきーと大事なお話ししてるからこれ飲んで待ってて」
私の前にウーロン茶のグラスが置かれて、
「ちゃんと返信メッセ確認してほしかったですね」
身を乗り出して私の耳元に囁かれた言葉に思い切り首を竦めた。
「えー? 話なんて終わってるじゃない。
千波ちゃんも一緒にお喋りでいいんじゃないの?」
「なーに言ってるの?
お話はまだ終わってないでしょ?」
柿本さんの抗議に顔をしかめたシンタくんは、彼の前に置かれたノートのようなものを指先でトントンと叩いていた。

