この帽子は、俺が今年のバレンタインのお返しに千波に買ったものだ。
ホワイトデーにはかなり早いバレンタインの1週間後だったけど。
兄貴に仔犬の世話という大役を仰せつかって上京していた千波に付き合わされて渋谷まで買い物に行き、その時千波が購入したニットワンピースに合わせてプレゼントしてやった。
思えば、あれが初めての2人だけでのお出掛けだった。
千波はテンション上がりまくりで大はしゃぎだったけど、それを宥めるフリをしながら俺もかなり楽しんでいた。
俺1人なら一生足を運ばないであろうファッションビルの中を散々連れ回されたのには閉口したけど、千波がいなければ見ることのなかった世界を覗けたのは本当に楽しい経験だった。
その楽しい思い出が詰まった帽子を俺は数ヶ月後の夏休みに訪れた千波の部屋で見つけた。
以前から清海に聞かされていた千波の宝物だというクマのぬいぐるみが被っているのを見てちょっと驚いたのを覚えている。(そのクマの大きさも想像をはるかに越えていて驚いたけど)
だけど嬉しかった。
千波が一番大切にしているものと一緒に置いてもらえていることが。
「あ、あのね? テディ…じゃなくてあのクマに被せてたのは大切なものは……」
あたふたしながら俺が思っていた通りの理由を述べる千波の頭を撫で続けながら
「分かってるよ。これからもクマさんと仲良く一緒に使ってね?」
そう言ってやると千波は目を見開きながら俺を見つめて、やがてコクンと頷いた。

