「ホントにすごいよね…。このお店。
シンくん、これ1人で作り上げたんだね」
香折さんがまた90度スツールを回転させて、カウンターに背中を預けながら店内を見回す。
「1人……ではないよ。
俺にカクテルのいろはを教えてくれた先輩がお酒揃えるの手伝ってくれたし、
店の看板は清海に書かせたし。
案外色んな人の力借りてる」
俺も香折さんと同じ向きまでスツールを回転させて、改めて店内を眺める。
暗めに落とした照明に観葉植物たちの緑が浮かんで見える。
「そっか……。何だかんだ言っても人は1人だけじゃ出来ること限られちゃうもんね。
そうやって助けてくれる人たちがいたのはシンくんの人柄のお陰だよ?」
こちらに首を傾げる香折さんに素直に「ありがとう」と頭を下げた。
「ここにある植物もあの壁掛け時計も全部実家にあったものなんだ。
両親が店をどんなインテリアにしたかったのか、もう聞けなかったからね。
実家のリビングを再現するつもりで作ってみた。
お袋がここに来た時、さりげなく記憶を刺激できたらいいなと思ってさ」
「お母さんはここに来たの?」
「まだ。何度も招待してるんだけど、千葉から出たくないの一点張りでね。
よっぽど嫌な思い出だけに塗り潰されちゃったんだろうな。ここでのお袋の記憶は」
カウンターに向き直ってグラスを口に運んだ俺に
「それは違うと思うな」
香折さんは店内の方を向いたまま首を振って言った。

