それからも香折さんと話し合いは持ったけど平行線のまま。
お互いにぶつけ合う言葉も変わらなくて、終わり方もいつも一緒。
いつまでたっても腹を割らない俺に香折さんが呆れて諦める……というパターン。
俺は大学を退学して、都内有名ホテルのバーラウンジでバイトを始めた。
ウェイターをしながらカクテルなどの勉強に必死で励んだ。
運の良いことに俺の熱心さを気に入ってくれた先輩バーテンダーに個人的に教えを乞うことも出来た。
本当に必死だった。
祖父の遺産相続を放棄しても父個人のそれと事故の賠償金が母と俺を支えてくれていた。
だからこそ、それを利用して踏み出そうと思った。
いつまでも記憶に蓋をしたまま
『私はずっと千葉にいた』
と当たり前のように語る母は、もう俺たち家族のことを思い出してくれないかもしれない。
それでも俺は賭けてみることに決めた。
夫婦揃って酒好きだった両親の夢。
『2人好みのbarを創る』
採算なんて関係なく、
父と母が親でもなくただの男女に戻って寛げるbar。
2人だけのためのbar。
それを俺が創る。
母のために。
そうしたら、俺たち家族のことを思い出してくれるだろうか?

