事態がまた急転してしまったのは数ヵ月後。
祖父の遺産相続が片付いても父が経営していた会社のことや立ち退きが決まった自宅の後始末。
俺のやらなければいけないことは山積みで毎日があっという間に過ぎていった。
母の病院には週一度、必ず時間を作って千葉まで通った。
俺には気掛かりなことがあった。
母は徐々に元気を取り戻しているが様子がおかしい。
入院した時は放心状態で誰のことも判別できなかったけど、叔母夫婦のことは認識できるようになった。
だけど、俺のことは思い出してくれない。
父のことも分からないみたいだ。
その後も病院に通いながら待ち続けたが、母の記憶の中から父と俺はすっぽり抜け落ちたままだった。
母は、自分が川越にいた頃の記憶全てをなくしてしまっていた。

