「こんなにいい景色をさぁ、楽しむこともしないでさっさと歩いていっちゃうんだね。あの人たち。
何か勿体なくない?」
工藤さんが指差す先には仲良く手を繋いで歩く兄と春ちゃんの姿。
景色なんかそっちのけでおしゃべりに夢中みたいだ。
「お兄ちゃんたちには慣れた場所だから…。
小さい頃からよく来てたんです。みんなで」
「そっか…。
こんな場所が自宅のそばにあるなんてスゲー贅沢。
千波ちゃんは俺のペースに合わせて歩いてくれるんだね?」
首だけで振り向いた工藤さんが私に微笑みかける。
何て答えていいのか分からなかったから、私は黙ってコクリと頷いた。
「ありがと。
優しいんだね、千波ちゃん」
工藤さんは、そう言いながら前に視線を戻す。
ちょっと俯き気味だった私も視線を前に向けた。
兄よりも広くて大きな背中にちょっとドキドキした。
バカみたいに仲が良いカップルのお邪魔虫するより、こうして歩いている方がずっといい。

