「ふふふ……」
尚も楽しげな笑みを浮かべている香折さんの視線から逃れるようにして、手にしていたグラスの中身を一気に煽った。
「あ、ごめん。ツマミ出してなかったね」
誤魔化すように抹茶色の小皿を取り出してピーナッツを盛り付け、香折さんの前に置く。
「ありがとう。
千波ちゃんね、ものすごく頑張ってたよ? 語劇祭。
私たまたま千波ちゃんと仲良くしてる子に慕われて、色々教えてもらったの。
本番2日前になって舞台で主役をやるはずだった2年生の女の子が風疹にかかっちゃったんだって。
代役も間に合わないから今年の上演は諦めるってことになりかけたんだけど、千波ちゃんが代役やるって言い張って丸2日殆ど寝ないでマレーシア語のセリフ全部暗記して本番に漕ぎ着けたの。
終わった瞬間に舞台裏で倒れて爆睡しちゃったらしいわよ?無茶するんだから…」
淡いピンクで彩られた綺麗な指先でピーナッツを摘まみながら香折さんが話してくれた。
「は……? マレーシア語?
あいつそんなの勉強してんだ」
俺は小さく笑いながら自分のグラスに新しい酒を注ぎ足す。
珍しい語学を専攻したり、
困ってる仲間を放っておけなくて、自分が無理してでも何とかしようとしたり。
どちらもあいつらしいと思った。

