「シンくんは驚かなかったね」
しばらくお互い黙ったままグラスを傾けていたが、香折さんが目線をあげてまた首を右に傾ける。
「ん?……ああ、髪と眼鏡のこと?」
俺の言葉に香折さんが頬を淡く染める。
「髪はちょっと驚いたよ?
長い髪大切にしてたじゃない。
随分思い切ったよなーって思った」
「眼鏡は?」
「それは全然。
だって、俺は掛けてないとこ見慣れてるもん。それなりに。
コンタクト? レーシック?」
「そうだよね。……それなりに、ね」
そう言った香折さんの表情が少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか?
すぐに明るい笑顔を取り戻して
「去年レーシック受けたの」
と言った後更に続けた。
「日吉くんなんて全然分からなかったんだよ?
待ち合わせのカフェで先に来てた私の横素通りしてくの。
慌てて呼び止めたらすごいビックリしてた。
後ね、千波ちゃんにも
『あの頃とはまるで別人です』
って言われたわ」
クスクスと楽しそうに笑う香折さんの前で俺は眉を寄せる。
「……千波?」
あいつ、香折さんと面識あったっけ?
「うん。あの子シンくんを乗せていったあのお葬式で1度だけ会った私のこと覚えてたよ?
私も驚いたけど、あの日のことはどんな小さなことでも全部覚えてるんだって」
香折さんが教えてくれたその千波の言葉に胸を突かれた。

