「お待たせしました。アドニスです」


出来上がったショートグラスのカクテルをそっとカウンターに滑らす。


「ありがとう」


香折さんはすぐにグラスを手に取ると、琥珀色の液体をゆっくりと眺めてからそっと一口口に含んだ。



「美味しい。こんな味のお酒だったんだ」



その感想に思わず吹き出す。



「知らないで頼んだの?」



「うん。この間友達がオーダーして飲んでたから。
なんかね、どこかの国の可愛い男の子の名前のお酒なんだって言ってたから覚えてたの」



「ギリシャの美少年の名前だよ」




俺は自分のグラスにお気に入りのハーパーをロックで注ぐ。




「そっか。ギリシャか」



ちょっと苦笑いしながらもう一口グラスを傾けた香折さんは



「うん。やっぱり美味しい。
私の好みにピッタリだよ。
知らないで頼んだけど当たりだったね」



鮮やかに笑ってみせた。