「元気そうで良かった」


小さく右に首を傾げて言う。
その仕草は昔からの香折さんの癖で、何も変わらないその姿に2人の間に流れた時間を忘れそうになった。


俺は小さく頭を振ってから


「何飲みますか?」


「じゃあ、アドニス」


俺の動揺には全く気付いていない香折さんに頷いてみせてから支度に取りかかる。



「こんな遅い時間に来るなんて思わなかった」


「私だって、こんな時間になる予定じゃなかったよ。
日曜日ならお店が空いててゆっくり話せるかなと思ってたんだけど、資料整理に大学に行ってたら手間取っちゃって」



香折さんは俺の手元を興味深そうに眺めている。



「相変わらず忙しそうだね。日曜なのに」


「本当だよ。助手なんてさ、都合のいい雑用係だもん。
うちの教授は思い付きで急に用事を言いつけることも多いから参っちゃうよ」



しみじみと頷いてから


「でも、明日は休講で私もしっかり休暇もらってきたから今夜はゆっくり飲ませてよね」


にかっと笑う香折さんに小さく苦笑いしながら俺は目を伏せて、酒を作る手元に意識を集中させた。