「でも、香折さんの気持ちも分かるだろ?今となれば。
香折さん、結婚するんだって。
…………野口教授と」
固まったままの俺に更に告げられる衝撃事実。
「その前にどうしてもお前に会いたいってさ。
会って謝りたいんだってさ」
カウンターに片肘をついて俺を見上げるようにしながら清海が小さくため息をつく。
「香折さんは知ってたよ。
シンタのお袋さんのこと。
別れてすぐに大学の誰かに聞いたみたいだな。
ずっと謝りたかったって言ってた」
清海の言葉に胸が痛む。
「そんな必要ないのに」
俺の呻くような呟きに清海は頷きながら
「俺もそう言った。
香折さんがどんなことお前に言ったのか知らないけど、大事なこと話さなかった方も悪いんだからって。
喧嘩両成敗じゃないけど、このままお互いそっとしといた方がいいんじゃないのって言ったんだけどね…」
清海の持ち上げたグラスの氷が溶けてカランと音をたてた。
「……そうじゃないってさ。
自分の方が悪いと思うって。
だから謝らせてほしいって繰り返されてさ。
この店教えたから。
後……今のお袋さんの状況も。
勝手に悪かったけど」
「…………分かった」
もう、それしか言えなかった。

