「何でって……」
色んなことに驚きすぎてさっきからまともな言葉を発していない。
そんな俺に対して清海は淡々と喋り続ける。
グラスを弄びながら。
「お袋さんの帰る場所を残すためにこの店は必要だったんだ…ってちゃんと話せば香折さんだってあんなに反対しなかったんじゃない?大学辞めること。
そしたら、あんな別れ方もしなかっただろ?」
まだ、頭が混乱したままなのに、
突然蒸し返された過去に苦いものが込み上げる。
あの時のことは。
俺だって後悔してないわけじゃない。
でも、あの時はどうしても言いたくなかった。
まだ認めたくなかった。
自分の不甲斐なさを。厳しすぎる現実を。
だから、大事なことを何も言わないままただ突っ走った。
香折さんを置き去りにして。
後悔してるに決まってるじゃん。
それがお前に分かるのかよ。
……って言ってやろうとしたけど。
「ーーーなんてな。
あの時はまだ言えなかったよな。ごめん」
清海が先にそう言ったから、俺はまた何も言えなかった。

