「…………」
黙ったまま砕けた皮がついてしまった手を洗う。
剥き終わった豆をフライパンで炒る。
ひたすらフライパンを揺すりながら、豆の甘い香りがたってくるまで約5分。
「…………は?」
何とか頭の整理を試みたが全くうまくいかず、結局俺が口にできたのはなんとも間抜けな一文字だけだった。
「昨日、香織さんに会った。
大学のそばのカフェで」
気長に俺の反応を待っていてくれた清海はもう一度はっきりそう言うと空になったグラスを差し出す。
機械的に受け取って、別のグラスにウーロン茶を注いで戻してやった。
今は他のカクテルなどを作ったりする余裕がない。
清海もそれが分かっているのか黙ってそれを受け取った。
「ふーん。偶然?
彼女まだ大学にいるだろうからそんなこともあるよな」
やっとそれだけ言って、再びフライパンに向き合う。
「偶然じゃなくて、会いたいって呼び出された。
……千波通して」
ガタンッ。
今度はフライパンを落としそうになった。

