「他にも何か出しましょうか?
お腹空いてるようなら食事も出せますよ」


わざと彼の質問は無視して語りかけるとすぐにパッと目を輝かせて


「パスタ食わせてください。
マスターの自信があるヤツおすすめで」


なるほど。
かなり切替の早い性格らしい。


「分かりました。
自信作ならナポリタンですかね。
後、カルボナーラも好評頂いてますし得意です」


俺の言葉に少し首を傾げた彼は


「じゃあ、カルボナーラで」


と言ってまたビールを飲み始めた。



まだ開店直後で時間は午後6時にもなっていない。


いや、正確にはまだ開店前だ。


看板を出す前におずおずとドアを開けて
「まだ早いですよね?」と訪ねてきたので入れてしまったのだ。


もともと俺1人でやっている店だから開店時間など厳密に決めてないし。




「あの、色々見せてもらってもいいですか?」


グラスを置いてカウンターから立ち上がり、
また店内を隅々まで物色し始めたちょっと変わったお客さんに笑いながら、俺は調理を開始した。