そして、長椅子に座って長い足をもて余すように組みながら煙草を吸っている先輩の写真を探す。
兄より5人分上に堂々とポーズを決める写真を見つけた。
『渡辺 直行:担当教科 高校現代文』
一言メッセージは
『やる気!! まずはそれだけあればいい』
ワタナベ ナオユキさん……か。
受験生に向けてのメッセージはシンプルだけど、とても分かりやすくて好感が持てる。
確かにまずはやる気を出さなきゃ何も始まらない。
「渡辺さんっておっしゃるんですね」
煙草を吸い終わったところで横に座った私にチラリと目を向けた渡辺先輩は前を向き直して「あぁ」と頷いた。
「お前は? まだ名前聞いてなかった」
「私ですか? 千波です。日吉千波」
「ふーん。
あいつからさ、めちゃめちゃ可愛い妹がいるとは聞いてたんだけどな。
名前までは聞いてなかったからさ」
「そうですか。
兄に妹がいるって知ってたわりには私が名乗った時、随分驚いてましたよね?」
私が小さく首を傾げてみせると、渡辺先輩は私の顔をマジマジと見直して
「だって、めちゃめちゃ可愛い、だぞ?
どう贔屓目に見てもお前はまぁまぁ可愛いってレベルじゃん。
随分話が違うなと思って…」
「ひどっ。初対面の人にこんなに失礼なこと言われたの初めてですよ?
ってか、どんだけの美女を想像してたんですか?」
「そりゃ、今流行りの電気街で文句なしで先頭センター張っちゃうくらいの、だろ。
お前じゃセンター取れても良くて2列目ぐらいじゃね?」
抗議する私に先輩は楽しそうに笑った。

