「日吉は今日2コマ目しかないから少しは時間とれるんじゃね?
呼んで来てやるよ」
巨人先輩が気をきかせて私を予備校の中に入れてくれた。
「うわ……」
開放的で綺麗に掃除が行き届いているロビーは、1年前に私が通っていた地元の予備校とは全然違っていた。
ただ、壁にベタベタ貼られた合格実績のポスターや講義のスケジュールなどは殆ど変わらない。
「一服してからでもいいか?」
ロビーの片隅にある喫煙スペースを指差す先輩に頷いて、私はキョロキョロと辺りを観察していた。
「あ……」
入り口そばの掲示板にこの予備校の講師陣が一覧になって貼り出されていた。
全員が右手でガッツポーズを決めた同じ姿勢の写真とその横に担当教科と一言メッセージ。
まず兄を探す。
新入りだからなのか、かなり下の方に普段は掛けていない艶消しシルバーの細フレーム眼鏡で照れ臭そうにポーズを決める兄を見つけた。
担当教科は高校英語。
一言メッセージは
『念ずれば花開く』
清雲兄ちゃんが私に教えてくれた大切な言葉を見つけて笑みが溢れた。

