結局あれから全然集中できなくて、パンフの編集は宿題ということにして私は大学を出た。
ゆかりちゃんは急に配役が増えて舞台に上がることになってしまった児島くんをからかいにいくと稽古場を見学に行った。
私は1週間前に捻挫した左手を診察してもらうため病院に寄って完治のお墨付きをもらってから足早に自宅までの道のりを歩く。
10月に入ってすっかり日が短くなった。
私はこの季節があまり好きではない。
理由もなく寂しい気持ちになってしまうから。
いや、今は寂しくなってしまうれっきとした理由がありありなんだけど。
「あ……」
大きな交差点で信号待ちをしていた私は後ろを振り返る。
こちら方面を歩くことは殆どなかったので初めてだけど…。
ここってお兄ちゃんの職場じゃない?
私は目の前の予備校の建物を見上げていた。

