「ゆかりちゃん、もうゼミなんて決めてるの?」
私たちの通う大学ではゼミに入るのは通常は3年生からなのだが2年生も希望すれば参加することはできる。
私は普通に3年生からゼミに入るつもりでいたので、まだそんなこと考えたこともなかった。
「うん。だって私は野口教授の講義が受けたくてこの大学に入ったんだもん。
棚橋さんに聞いたらね、野口ゼミは人気が高いから2年生から参加する人もいっぱいいるんだって」
「へえ……」
私はよく知らなかったが、野口教授というのは有名なお方らしい。
「もしかして、ゆかりちゃんはもう将来就きたい職業も決まってるの?」
「具体的にはまだ悩んでる。
児童福祉に関わる仕事っていうのは決めてるけど。
ちーちゃんは、もちろん教職だよね?
小学校?それとも中学?高校?」
「あー…、高校の現代文……かな?
一応目指してるのは」
「へー。何か似合いそうだね」
「そうかな?」
私は曖昧に微笑んでパソコンに視線を戻した。
そういえば、シンタくんはこの大学で教育心理学を専攻して何を目指していたんだろう?
2年生の時にお父さんが亡くなって、3年生の途中で大学を辞めることになってしまったらしいけど、ここに通っている間、シンタくんの夢は何だったんだろう?
兄を通じてシンタくんの大学時代のことを色々教えてもらっていたけど、肝心なことは何も知らなかったなと改めて気付いて、私はぼんやりと編集中の画面を見つめていた。

