「棚橋さんってちーちゃんのお兄さんのお友達だったんだね」
編集中の画面を私の右側から覗き込みながらゆかりちゃんがサラリと言った。
あれから香折さんのことをゆかりちゃんにも児島くんにも話していなかった私はちょっと驚いて顔を上げる。
「そうだけど、何で知ってるの?」
「昨日ね、また棚橋さんとすれ違ってね。
私から声をかけたの」
「ふーん。そうなんだ」
あの日以来、自分のことを優先するという言い訳のもと無理矢理蓋をしていた存在を思い出してしまい心の中で舌打ちしてしまう。
今は触れないでほしいな…。
私の心のデリケートゾーンに。
私の無言の抗議に気付くはずもなくゆかりちゃんは続ける。
「棚橋さんってさ、女の憧れフル装備してるじゃない?
ルックスもキャリアも。
どうやったらあんな完璧人間になれるのかなーって聞いてみたくない?」
「それで声かけたの?」
呆れる私にゆかりちゃんはニヤリと笑う。
もし、その質問をまともにぶつけた場合香折さんはなんて答えるんだろう?
「もちろんそれもあるんだけどね。
私、来年から野口教授のゼミに参加するって決めてるから色々聞きたかったの」
その発言に作業に集中しなおそうとキーボードに伸ばしかけていた手を止めた。

