『はぁぁぁぁ?!』
「……お兄ちゃん、声大きい」
テディを抱き締めながら耳に当てていたスマホを遠く離した。
それでも兄の声はハッキリ聞き取れた。
『お前、今、香折さんって言った?
香折さんってあの香折さんだろ?』
「そんなに連呼しなくてもその香折さんだよ」
投げつけるように答えると兄がふいに黙り込んだ。
『ーーー悪い…。最近は踊子以外に驚かされることもなかったから。
まさか、お前からその名前聞くとは思わなかったし。
でも、考えてみれば同じ大学だもんな。
顔合わせても不思議じゃないか。
香折さんがお前をわざわざ探しだしたっていうのは意外だったけど』
「お兄ちゃん、就職のこと教授に報告した時私のことも話したでしょ?
妹が今年入学したって」
『あー……、話した。それでか。
千波、重ね重ね悪いな……』
離れていてもバツ悪そうに頭を掻く兄の姿が目に浮かぶ。
「別にいいんだけど。そんなことは。
それより、ちゃんと香折さんに連絡してよ?
私、何度も頭下げられちゃったから…」
『あぁ…。でも、何で俺なんだ?今になって』
「知らないよ」
ため息と共に答える。
私だって意外だった。
香折さんがわざわざ私を探しだして頼みたかったことが兄と連絡を取る……だったなんて。

