「日吉くんは元気にしてる?
やっと教職に戻ったんでしょ?」
「何で知ってるんですか?」
ちょっと驚いて香折さんに向かって身を乗り出す。
もしかして、シンタくんから聞いたのかな?
「たまたまね。
日吉くんがゼミで習ってた教授に連絡してきたんですって。
また教職を目指すことにするって。
その教授はものすごく日吉くんを目にかけてたから、連絡もらえたのが本当に嬉しかったみたい。
私の研究室の教授にも報告に来たのよ?
全然知らない学生の話されてびっくりしてたわ。うちの教授」
クスクス笑う香折さんになるほどと納得して頷く。
世話になった教授に連絡するとか、律儀な兄らしい。
「私は日吉くんとそんなに親しかった訳じゃなかったけど、やっぱり嬉しかったな。
今はどこで教えてるの?」
「この近くの予備校で英語を教えてます」
「そっか。本当に良かった。
私はあのお葬式には付き添いで伺ったから、参列もしないで外で待ってたの。
それでも周りから聞こえる話で大体の事情は分かったから、とてもやりきれない思いだったわ……」
「ご心配お掛けしました。
でも、もう大丈夫です。
あの……、兄のことが聞きたくて私のこと探してたんですか?」
そろそろ本題を知りたくて、私は香折さんに向かって首を傾げてみせた。
途端に言葉に詰まり、短い髪を指先で弄びながらしばらく黙っていた香折さんは、思い切ったように私を見つめて言った。
「ねえ、シンくんは元気にしてる?」
……本題になんか踏み込むんじゃなかった。
自分の言動に後悔しながら私は俯いた。

