「ーーー髪、切ったんですね。後、眼鏡も」
残っていたウーロン茶を飲み干して、心を落ち着かせてから声を発した。
香折さんは私の言葉に目を丸くする。
「あら?覚えてたの?」
「あの日のことは全部覚えてます。
どんな小さなことも、1つも忘れたりしてません」
「そっか……。そうだよね」
小さな声で言って俯く香折さんを見つめる。
そう。私はあの日のことを忘れたりはしない。
大好きだった春ちゃんのお葬式の日のことを忘れるわけがない。
「でも、あの時の香折さんと今日の香折さんはまるで別人ですよ?
本当に全然分かりませんでした」
ちょっと明るく言った私に安心したのか香折さんはクスリと笑って言った。
「そんなに違うかな?
周りの皆にそう言われたけど。
去年ね、レーシックの手術を受けて眼鏡を外したの。
そうしたら思い切って変身してみたくなってね。
髪もバッサリ切っちゃったのよ」
そうだったんだ。
私の記憶の中の香折さんは、絹糸みたいにさらさらで綺麗な黒いロングヘアーで華奢な細縁の眼鏡をかけていた。
だから今目の前にいる香折さんとは全く結び付かなかったのだ。

