「ホント懐かしい……。
準備はさ、学芸会みたいなノリだけどそれはそれで楽しいんだよね。
翻訳に苦労して皆で頭抱えたりさ。
私は好きだったな、語劇祭」
しみじみ語る綺麗なお姉さん。
それぞれの第2語学に関するサークルが集い、学祭の前日にそれぞれの語学で30分程度の芝居を上演するイベントがあって、これも大学独特の伝統行事とされている。
これが『語劇祭』
上演する演目決めもその翻訳も全部自分達でやる。
授業以外のサークルでも第2語学をやりたいなんて学生は少数派。
それでも語劇祭に参加してみたいとか試験前にサークルメンバーで勉強を助け合えるから、などの理由でそれぞれの研究会に所属する学生もいる。
私もその1人でインドネシア研究会に所属していた。
「ラテ研ってことは、スペイン語ですよね。
…………えっと……」
話を続けようとして肝心の名前も聞いていないことに気付いた。
それは相手も同じだったようで
「あっ!ごめんね。
名乗りもしないで馴れ馴れしく話したりして…」
慌てて傍らのバッグから名刺を取り出して私に差し出した。
「棚橋 香折(タナハシカオリ)っていいます。
よろしくね。日吉 千波ちゃん?」

