「はい。どうぞ」
缶入りのウーロン茶をちゃんと開けてから私の前に置いてくれる。
「すみません。
あの、本当に色々ありがとうございました。すごく助かりました」
立ち上がって深々と頭を下げた。
「やだ!大したことしてないんだからやめてよー。
ほら、座って?まだ結構暑いもんね。
あんなとこでペンキ塗りしてたら喉乾いたでしょ?」
そう言われて素直に座ってウーロン茶を頂いた。
確かに喉がカラカラだったから。
そんな私の様子を確認して、私の前にゆっくり座ったその人はテーブルに両肘をついて私に微笑みかけながら言った。
「ねえ、何研?」
「は?」
「あれ、語劇祭の準備でしょ?
懐かしかったわあ、私もあそこで同じように作業してたもの。
あ、私はラテ研ね」
そっか、卒業生の人なんだ。
ものすごく自然体で接してくれるので、私も肩の力がスッと抜けた。
「私はネシ研です」
「えー?インドネシア研究会なの?
随分マニアックだよね?」
「そうですかね?」
私は笑いながら首を傾げた。
ちなみにラテ研はラテンアメリカ研究会の略だ。
私の通う大学では、英語以外の第2語学を10ヵ国語から選択する。
大体の大学はドイツ、フランス語が主でせいぜい多くても4~5ヵ国語らしいのだが、多彩な語学を学べることを売りにしているのだ。
私はどうせならこの大学でしか学べないような語学を選択しようと決めた。
それがインドネシア・マレーシア語。
インドネシア圏の公用語のマレーシア語だ。

