「とにかく大したことなくて良かったよー。
あ、そうだ。
ちーちゃん、ここに連れてきてくれた人なんだけど」
ゆかりちゃんの声に項垂れていた頭をガバッと上げる。
「そうだった!
あの人どこ行った?ちゃんとお礼しないと…」
倒れたベニヤ板の横で捻ってしまったらしい左手を抱えて蹲っていた私に、たまたま通りかかった職員の人が駆け寄ってくれた。
そして、大学の医務室でいいと言ったのに
『怪我が酷かったら二度手間でしょ?』
と車で近くの病院に連れてきてくれたのだ。
ドタバタしていたけどそれでも思わず目を向けてしまうような、ショートカットの綺麗な女の人だった。
「喉乾いたからあっちの喫茶スペースでコーヒー飲んでるって。
ねえ、あの人だよ?
私たちにちーちゃんのこと聞いてきたの」
「へ?」
立ち上がろうとして腰を浮かせたまま間抜けな声が出てしまった。
ゆかりちゃんの横では児島くんも「そうそう」と頷いている。
あの人が私を探してたの?
あんな綺麗なヒト、私の知り合いにいない。
「ふーん。分かった。
やっぱり人違いみたいだけど、お礼だけは言ってくるね」
先に歩いて大学に戻るという2人にももう一度きちんと謝ってから、私は喫茶スペースに足を向けた。

