「ありがとうございました」
丁寧に頭を下げて診察室を出た。
すぐ前の長椅子で待っていてくれたゆかりちゃんと児島くんがすぐさま立ち上がる。
「…………お騒がせしました。
左手首捻挫で全治1週間、でした」
とりあえず今日だけでも、と三角巾で吊るされてしまった左手を持ち上げて見せると2人とも大袈裟に息をつく。
「もう!びっくりしたよ。
バルコニー片手で支えようとするなんて!
ちーちゃんが下敷きになっちゃったら大変だったよ?」
「ごめん。ゆかりちゃん。
で、バルコニーはどうなった……?」
私の質問には児島くんが答えてくれた。
「乾かないうちに倒れちまったからな。
多少土とかついたけど、おかげでいい感じに汚れて味が出たからそのまま使うことにしたよ。
怪我の功名ってやつか?
今は、先輩たちが続きの作業してくれてる」
「そっか……。作り直しにならなくて良かったー」
安堵して椅子に座り込んだ私を呆れたような苦笑いを浮かべたゆかりちゃんと児島くんが見下ろしていた。
作業中によろけた私の上に落ちてきたのは、大きなバルコニー……の書き割り。
私たちのサークルでは学園祭の前夜祭でお芝居を上演することになっている。
その舞台装置として大きなベニヤ板に絵を描いて、終わったものを立て掛けてペンキを乾かしていたのだ。
それを私が蹴飛ばして倒してしまった。
咄嗟に空いていた左手で支えようとしたけど、巨大ベニヤ板は支えきれずに。
製作に5日もかかった作品をダメにしていたらこの2人にもサークルの先輩方にも顔向け出来ないところだった……。

