はっきりと意識を取り戻せたのは、夕方になってからだった。
西日が差し込む部屋のベットで気がついた私のおでこには冷却シートがペッタリ張り付いていて、それだけではなく横向きに寝ている私の耳元に響くチャポチャポという音と頬に感じる浮遊感と冷たさ。
懐かしいな…。氷枕だ。
小さい頃、高熱を出す度に母が私に当ててくれた。
でも、こんなのうちにあったっけ?
重い瞼を開いた私の目の前には霜降りグレーの広い背中。
私の枕元に寄り掛かって体育座りで小説を読んでいるシンタくんの後ろ姿だった。
あー、シンタくんが来てくれたのは夢じゃなかったんだ。
そう思ったら、また鼻の奥がツンと痛むような気がした。
と、グスンと鼻を啜る音。
私のじゃない。
私じゃないということは、シンタくんだ。
シンタくんが、泣いてる?
ゆっくりと物音をたてないように首を伸ばしてシンタくんの様子を覗いてみたら。
シンタくんは、私がローテーブルに置きっぱなしにしていた小説を読んでいた。
王道の純愛ラブストーリー。
いわゆる悲恋物と呼ばれる作品を。

