カイチくんの言う通りだった。
陸上をやっている間はショートボブだった髪を辞めたと同時に伸ばし始めた。
それには陸上から自分を切り離すだけじゃなく、他の意図もあったんだけど。
でも、慣れない長い髪は時に邪魔くさくて私はいつでも結べるようにシュシュを持ち歩いてた。
結んでいる時の表情なんて気にしたこともないけど、結ぶと気が引き締まる感じがして、それは私の切替スイッチみたいなものだった。
こういう女子って結構いたんじゃないのかな?
改めて言われるとかなり恥ずかしいけど。
「陸上トラックのスタートラインって体育館の前だっただろ?
だから、スタート前の表情はよく見えてたんだ。俺、視力いいし。
日吉だけじゃなくて他の選手もみんなそうなんだけど、スタート前の引き締まった顔は本当にカッコいいよね。
それがまた見れるから、日吉が髪を結ぶのが密かな楽しみだった。
こんなこと言ったら、引く?」
「当時聞いてたら引いた…かも…。
今は……だいじょぶ、かな」
何とかそれだけ言って俯く。
空が暗くなってきてくれて助かった。
明るかったら真っ赤な顔がいたたまれない。
「そりゃそうだよね。
俺も今話ながら当時の俺ヤバイなって思った。
でもついでだからさ、日吉の髪に関するもう1つの話、してもいい?」
楽しそうに笑いながら言うカイチくんに目をむく。
ま、まだ続きがあるんですか?

