「俺が初めて日吉を見たのは、1年生の時で日吉はまだ陸上部員だった。
日吉、自分が目立つ存在だったの分かってた?」
クスリと笑いながら私を見やるカイチくん。
私は黙って首を振る。
「走ってる日吉はめちゃくちゃカッコ良かったから、体育館組の部活の奴らは結構騒ぎながらグラウンドを見てたんだよ?
俺もその1人。
まあ、俺は騒いでる奴らの後ろからこっそり眺めてたんだけど。
何だかミーハーみたいなのはイヤだったから。
でも放課後、グラウンド見るのは人一倍楽しみにしてたかも。
それくらい走ってる日吉を見るのが好きだったんだ。
それなのに、いつの間にかグラウンドから日吉の姿が消えちゃって。
怪我して辞めたこと知らなかったから、いつか戻ってくると思って待ってたんだ。
そしたら、グラウンドじゃなくて、生徒会で再会しちゃった。
あの時は、正直嬉しいのと残念なのと半々でフクザツな気持ちだったな。
友達になれたのは嬉しかったけど、走る姿が見れないのはものすごく残念だった」
淡々と話すカイチくんを黙って見上げた。
走っている私をそんな風に見てくれていたなんて知らなかった。
「久し振りに見た日吉は髪が伸びてて、いつも左手首にシュシュ付けてた。
それでミーティングで黒板の前に立つ時とか、何か作業をする時は必ず髪を結ぶんだ。
結び終わって伏せてた視線を上げる時、いつも思った。
あー、スタート直前の日吉の顔だ…って」

