「そろそろ行こっか」
散々笑い合った後、カイチくんが「よっ」と勢いをつけて立ち上がった。
「帰りはあっちから出よ。
その方が駅に近いんだ。送るよ」
湖の向こう側に見えるゲートを指差すカイチくんに頷いて私も立ち上がった。
すっかり藍色に占拠された空の下を湖半周分ゆっくりと並んで歩く。
「実はさ、一緒に走ってくれたこととは別にもう1つ嬉しいことがあったんだ」
前を向いたままカイチくんが言った。
「え?何だろ?」
全く心当たりのない私は首を傾げながら、カイチくんの顔を覗き込むようにする。
いつの間にか、私たちの距離は随分縮まっていることに気付いた。
「……その髪だよ」
照れ臭そうに躊躇って、カイチくんが指差してみせたのは私のポニーテール。
「髪?」
ポニーテールに手をやりながら、私はカイチくんの言いたいことが分からず、続く言葉を待った。
「日吉って、いつも左手首にシュシュ付けてさ、何か気合いが入ると髪を結ぶだろ?
結んだ瞬間に顔つきも変わるんだ。
キリッというか、凛とするんだよ。
その瞬間を見るのが…
好きだった…」
思いがけない告白に、何も言葉を返せなかった。
そんな私を横目に見て、カイチくんは更に続ける。

