「…………はぁっ……はぁっ……。
日吉、やっぱすごいわ……。
いや、マジでこんなむきになるつもりなかったのに……」
「…………はぁっ……。
私だって……そうだよ。
カイチくんがどんどん先に行っちゃうから…」
2人してゴールしたベンチにへたりこんで、必死に息を整える。
勝負は(本当にいつからこうなったんだろう…?)私の完敗だった。
でも、カイチくんはまだ不満だったらしく、
「もっとぶっちぎり出来ると思ったんだ。
元々走るのは得意な方だし、今でも毎日運動してるし。
なのに、後ろ見たらすごい近くに日吉がいたからびっくりした。
あー、悔しっ」
本当に悔しそうに両膝を叩いて立ち上がったカイチくんは、
「水買ってくる」
と少し先にある自販機へと歩いていった。
まだ肩に掛けたままの私のバッグが揺れる後ろ姿が可笑しくて吹き出してしまう。
何だか、とても不思議な気分だった。
卒業式で決して快い別れ方をしたわけじゃないカイチくんと思いがけず再会して、すぐにこんなに打ち解けて過ごしていること。
もう2度とないと思っていた全力疾走をして、やっぱり陸上が好きだと思い出せたこと。
どちらも全く想像できなかった出来事だったけど、私はすんなりと受け入れていた。

