カイチくんは本気の本気だった。
大学でもビーチバレーをやっていると言っていたので、現役バリバリのスポーツ男子。
かたや、元陸上部とはいえ現役を退いてブランク3年。
絶賛運動不足のへなちょこ女子。
みるみる差が開いていく濃紺の背中を必死に追いかけた。
他に私たちみたいに全速力で走っている人なんていない。
ジョギングや犬の散歩をしている人を追い越す度に
「こいつら何やってんだ?大丈夫か?」
みたいな好奇の視線を感じたが気にする余裕もなかった。
ただがむしゃらに走る。
こんなこともう2度とないと思ってたのに。
陸上を辞めた時から、全力で走る機会はもうないだろうと決めつけてきた。
アスファルトを捉える足の感覚が懐かしい。
酸素を求めて息づかいが激しくなるのに比例して、頭の中が空っぽになっていく。
私は、考えること全てを放り出して、ただ走ることに集中した。
茜色に染まるアスファルトの道を。

