『散歩』というから歩いていける範囲に目的地があるのかと思ったら、カイチくんが向かったのは駅だった。
真っ直ぐ改札に向かいながらカイチくんが振り向く。
「あ……、日吉は切符?」
「大丈夫。ICカード持ってる」
財布からカードを出して見せると
「ん…。じゃ、こっちね」
頷いてそのまま進んでいった。
JRで2駅、大きなターミナル駅で地下鉄に乗り換えてまた2駅。
車内での私たちは殆ど話さず、つり革1つ分の距離をおいて正面だけを見据えていた。
でも、気まずいとか息苦しいとかは全くなくて、私はだんだんワクワクして、この時間を楽しみ始めていた。
誕生日以来、私の行動範囲は自宅と大学とkuraraのみ。
脳内はほぼシンタくん。
今日までは何とかそこに大学のテストを捩じ込んでいた。
そんなところに突然やって来たカイチくんは、私に新しい何かを見せてくれそうな気がした。

