「…………偶然じゃないよね?」
新しい飲み物が運ばれてきて、無糖のアールグレイを口にした私はグラスを持ったままカイチくんに言った。
「うん」
目の前のアイスコーヒーに少しだけミルクを垂らしてカイチくんが素直に頷く。
「わかるでしょ?」
「雪、だよね?」
私の言葉に微笑みながら、カイチくんは黙ってストローでコーヒーをかき回していた。
東京は広いようで狭い。
ましてや私たちの通う大学は隣同士の区にあって本当に近い。
だから、ひょっこり顔を合わせることがあっても不思議じゃない。
繁華街でバッタリとか、
大型書店で『あれ?久し振り~』とかなら。
だけど、ここはガッツリ女性をターゲットにしたお花屋さんカフェだ。
カイチくんみたいな男子が1人でフラッと入る、というのはなかなかあるもんじゃない。
「そんな困ったみたいな顔しないでよ。
宮下が教えてくれたんだ。
日吉が自宅のそばのお花屋さんカフェに入り浸ってる、って。
それでうちの大学でこの辺りに住んでる奴にそんなカフェがあるのか、って聞いたらすぐに分かってね。
分かったら会いたくなって来ちゃった。
迷惑……だったかな?」
コーヒーを一気に半分ほど飲んで、カイチくんが少し悲しげな瞳で真っ直ぐ私を見つめた。

