「もう!いつまで妹の顔で遊んでるのよ。
このまま歪んじゃったらどうしてくれるの?」
随分長いこと遊ばれ続けてやっと解放された私は頬を擦りながら兄に噛みつく。
「そんなことになるわけないでしょ」
さっさといつもの調子に戻った兄はテキストを手に取り直してパラパラと捲り、私の方を見ようともしない。
「……ドライヤー勝手にお借りしますね」
ため息と共に頭のバスタオルを押さえながら立ち上がった私の背中に兄の声が飛んできた。
「お前、そっちの方が全然いいよ」
「何の話?」
「お顔の話」
「……」
そう言われてさっきまでのメイクの話かと兄の言いたいことに思い当たる。
結局誉めてくれたのは踊子さんだけ。
優しすぎる踊子さんの意見は頼りにならないから、多分本当に似合っていなかったのだろう。
明日はいつものメイクでいこうと心に誓う。
結構時間かけたんだけどな…。あのメイク。
肩を落としてバスルームに向かう私を更に兄の声が追ってくる。
「大人ぶるのと本当に大人になることを履き違えるなよ?
そーゆー勘違いが一番嫌いだからな。
……シンタは」
すっかり『らしさ』を取り戻した兄の言葉は……。
とても、重い。

