かつて、小学校教員を目指していた兄。
無我夢中に目標達成だけを目指して走り続けた結果、恋人だった春ちゃんとの間に溝が生じてしまって、永遠に彼女を失ってしまった。
その過去を引き合いに出して、いつまでも兄を心配しても仕方がない。
兄は、昔の兄じゃない。
それに今の兄のそばには踊子さんがいる。
「そうだよね。変なこと言ってごめん」
ペコリと頭を下げて元の姿勢に戻った途端、兄が両手で私の顔を挟んで頬をウニウニとする。
「にゃ、にゃにしゅるのー??」
タコ口になった私を笑いながら兄が言った。
「だから、これからはもっと妹らしく俺に甘えなさい。分かった?」
顔を挟まれたままの私の瞳が捉えたのは、私が一番好きだった兄の表情。
どんなことがあっても守ってくれそうな、世界一頼りがいがあると確信できる兄の姿。
誰もが認めるお兄ちゃんっ子だった私の大好きでたまらなかった兄が戻ってきていた。
良かった…。
本当に本当に良かった。
「わがっだがらはなじて~」
なかなか離してくれない兄にじたばたと抵抗しながら、私は必死に込み上げてくるものを堪えていた。

