「千波ちゃん、こんな時間だけどこれ一緒に食べない?」
踊子さんがテーブルに置いたのは綺麗なガラスの器に盛られた立派な枇杷。
「今日、陸くんがうちに届けてくれたんだって。
親戚の方が育てたみたいね。
明日の朝食べようかと思ったんだけど見てたら我慢できなくて少しだけ洗ってきちゃった」
ペロッと舌を出す踊子さんが可愛くて、私は「食べる!」とすぐに手を伸ばした。
「お前今度はブタになるぞ。
ってか、ヨーコちゃん俺にはないの?」
あくまでも私を動物にしたいらしい走太さんが悲しげに踊子さんに訴える。
「あんたはうちに帰ればたくさんあるでしょ。
それよりさっさっと用事済ませて帰りなよ。
明日も診察あるんでしょ?」
そう言いながらも自分の分の枇杷を差し出してあげている踊子さんはどこまでも優しい。
「そっか。走太さんも歯医者さんなんだ…」
「調子悪いとこがあったら削ってやるよ?
もちろん麻酔なしで」
「地球上に歯医者さんが走太さんだけになったら考えてあげてもいいよ」
「じゃあ俺ぜってー最後まで生き残ってやる」
走太さんはそう言いながら兄の前に陸くんのドリルらしきものを広げた。
兄は食べ終わった食器を端に避けながらそれを覗き込んで、空いた方の手で私の頭をポンポンと叩く。
私はそれ以上は邪魔しないように黙って食器をキッチンに下げた。

