「今日は本当にありがとう。
シンタさん、今日もお店あるのにこんな時間まですみませんでした」
「千波もわざわざサンキューな。
お前、大学生活を楽しむのもいいけど勉強もちゃんとしろよ?
後、何かあったら必ず電話してこいよ?」
踊子さんと兄の言葉に揃って無言で愛想笑い。
力なく手を振ってマンションを出る私とシンタくん。
兄たちの引っ越しは無事に完了。
あーだこーだと試行錯誤を繰り返した私たちのリビングコーディネートを踊子さんはとても気に入ってくれた。
最後にみんなでコーヒーを飲んで解散ということになり、走太さんはさっさと帰っていった。
私とシンタくんは2人で帰ることになったが、私たちの間はどうにも気まずい。
私はともかくとして、何故かシンタくんまでが無口になって何か考え事をしているようだ。
踊子さんとキッチンから戻ってきたシンタくんはどこか様子がおかしくて。
兄たちが話しかけてもどこか上の空でぼんやりしていた。
マンションを出ると目の前は大きな公園で、そこを抜けてから駅までは徒歩10分ほど。
無言のまま公園の遊歩道を歩く。
新緑のアーチの下を俯きながら歩くだけなんて勿体なすぎて、沈黙に耐えきれなくて私の方から声をかけた。

