2人の話は続いていたけど、もう私の耳には何も入ってこなかった。
そのまま音をたてないようにして兄たちのところへ戻る。
「あれ?ヨーコちゃんは?」
「今シンタくんとコーヒー淹れてるから終わったら来るって」
無理矢理の笑顔で答えた。
「ねえ、やっぱりソファーはあっち側の方がいいと思うんだ。
キッチンに完全に背中を向けちゃうと踊子さんが見えなくなっちゃうよ。
踊子さんはキッチンにいる時間長そうだからさ、その姿が見えた方がいいでしょ?お兄ちゃん?」
ヤケクソで明るく振る舞って兄の肩を叩いた。
兄は不思議そうに私を見ていたが、やがて両膝を叩いて立ち上がり
「よし!走太、そっち持って」
「マジかよ…。これが最後だからな」
「ソファーがそっちになったらテーブルも向き変えてそこに置くからね!」
私は一際大きな声を出してはしゃぎながら兄たちのおしりを叩いた。
『ーーーずっとこのまんまなんじゃないかな?』
『ーーーあの時の強烈なインパクトを超える何かがないと……』
さっきまでの時間を忘れるように動き回ってみたけど、私の耳の奥ではシンタくんの言葉がぐるぐると回り続けていた。

